鍵の作製・トラブル、セキュリティシステムの提案・施工
鍵や錠を安全上支障なく使用するため耐用年数で保守・点検が必須
鍵を紛失した際に、防犯面から鍵の交換の必要性などの情報を見聞きしたり、このコラムでもこれまでに同様の内容をご案内してきましたが、鍵の交換が必要なのは紛失の場合だけでしょうか。実は鍵には耐用年数があり、経年劣化により製品事故が起こることがあります。今回は、鍵の耐用年数について考えてみましょう。
経年劣化によるリスク
平成21年4月、経済産業省により経年劣化による製品事故防止のため、「長期使用製品安全点検制度」が施行されました。この「長期使用製品安全点検制度」とは、特定保守製品に分類される経年劣化によって火災や死亡事故などの重大事故を起こすおそれがある製品を購入したユーザーに、メーカーや輸入業者が点検時期を知らせることにより、事故を防止するための制度です。特定保守製品は所有者自身による保守が難しい設置型の製品で、令和3年8月1日の消費生活用製品安全法施行令が改正され、以降は石油給湯器と石油ふろがまが対象となっています。
錠は「長期使用製品安全点検制度」の対象製品ではありませんが、日本ロック工業会では、自主的に製品の耐用年数を定め、ユーザーに適切な使用方法と維持管理方法をお知らせし、長期にわたり安全に使用してもらうために鍵の耐用年数を設定することになりました。
錠は精密部品であり、部品の使用頻度による磨耗・環境変化による劣化(グリス劣化・樹脂劣化)より10年以上は確実開閉動作などの操作性の維持と防犯性能の維持が困難と考えられます。日本ロック工業会では各メーカーと協議の上、一般錠の耐用年数を10年と定めることになりました。
鍵や錠の耐用年数とは
日本ロック工業会が設定する耐用年数とは、錠の基本性能を保守・点検により維持できる期間のことで、長期使用製品安全点検制度と同様に、ユーザーに点検を促し、取り替えの時期を示しています。
耐用年数の根拠としては、JISやBL基準での繰り返し耐久性の回数が経験値である10年間の使用回数を参考にし、次のように計算されます。
標準使用頻度=平均所帯人数3人×扉開閉10回×365=10,950回 錠の耐久使用回数100,000回÷10,950回/年≒10年 (錠の耐久使用回数はJIS A 1541-2の最低グレードの規定100,000回より算出。)
電気錠に関しては一般錠の考え方に加え、電子部品や導線の通電時の発熱による酸化・帯磁による経年劣化や一般環境下における絶縁性能の劣化、特性劣化、腐食等が製品に影響を与えることのない年数を基準とし、7年に設定されています。
また、製品により無償保障期間を定めたものがあります。各メーカーの保証期間は平成15年7月に工業会発行の「錠の商品保証、取扱説明書作成に関するガイドライン」において一般錠2年、電気錠1年とした指針を示し、各メーカーがその保証期間を採用しているものです。
それに対し、耐用年数は錠を適切に保守・点検することにより安全上支障なく使用できる標準的な期間で、無償保証期間とは期間が異なり、耐用年数に影響はありません。たとえば耐用年数10年、無償保障期間2年の製品の場合、無償保証期間を過ぎた期間は有償の保証期間となり、10年-2年=8年となります。無償保障期間の後に耐用年数10年があるのではないことをご理解ください。
耐用年数を過ぎた場合
耐用年数は、製品寿命(耐用年数期間)を過ぎてなお使用し続けたことにより発生する事故を想定して定められました。それでは、耐用年数を過ぎて使用した場合、ペナルティ等が発生するものでしょうか。
日本ロック工業会が設定した耐用年数を過ぎても使用することは可能です。しかし、経年劣化等により錠本来の機能が損なわれることがあり、できるだけ早期に錠の交換をおすすめします。そのまま点検やメンテナンスをせずに使用した場合、重大事故につながる可能性も否定できません。
※但し、耐用年数期間内でも使用頻度の高い商品または部品の経年変化(使用に伴う消耗、摩耗など)や樹脂製ハンドルやノブ等の経年劣化(樹脂部品の変質、変色など)またはこれらに伴うさび、その他の不具合は仮に事故が起きたとしても、製品側では免責となります。
耐用年数が近づいたら保守・点検
耐用年数が近づいたらどうすればよいのでしょうか。耐用年数の開始は建物(製品)引渡し後あるいは購入後からで、10年(電気錠は7年)です。耐用年数は錠を適切に保守・点検することにより安全上支障なく使用できる、あくまでも標準的な期間で、保障するものではありません。目安であるので、耐用年数の前であっても不具合が生じていたり、故障の可能性があれば、専門店などに依頼し、点検してもらう必要があります。また、耐用年数が過ぎている場合は、目に見えた問題がなくても、安全安心に使用するには点検されることをおすすめします。
耐用年数の対象製品は、JIS A 1541-2:2006「建築金物-錠-第2部:実用性能項目に対するグレード及び表示方法」解説 4.適用範囲に規定されている建物向け製品全般ですが、もしそれ以外の製品だからといって、経年劣化がないわけではありません。日本ロック工業会の耐用年数を目安にして、対象製品と同様に点検するのが得策です。
集合住宅の共用出入口で使用している錠については、管理会社や管理組合の管轄になりますが、これらの錠については日本ロック工業会が設定する対象ではありません。というのも、日本ロック工業会が設定している使用頻度を超えることが想定されるためです。集合住宅の規模、入居者数などにより使用回数を想定し、錠の耐久使用回数を適用した上で「錠の保守・点検制度」を利用し、メーカーが推奨する期間(例えば半年に一回等)を参考にして点検を実施するよう推奨しています。
戸建て住宅でも集合住宅でも、鍵の耐用年数を知ること、意識することで、鍵のある生活をより安全安心に、快適に過ごせるようになるとよいですね。